日本人では成人男性の約3割、成人女性の約2割が肥満といわれます(厚生労働省の調査より)。肥満とまではいかなくても、「なんだか下っ腹が出てきたなぁ」なんて気にしている人もいらっしゃるでしょう。ところで、なぜお腹全体が大きくなるのではなく「下っ腹」から太ってしまうのでしょうか?今回は「ぽっこりお腹の原因」について解説します。
記事監修
岡村信良 医師
医療法人小田原博信会 理事長、医学博士-健康検定協会-
■下っ腹が出るのは主に「脂肪」のせい!
下っ腹が出てくる主な理由は「脂肪」が付くためです。この脂肪は、もともと生体の維持のために蓄えられます。
消費するエネルギーよりも(飲食で)摂取するエネルギーのほうが多ければ、人間の体はその余分なエネルギーをいざというときのために取っておこうとします。
三大栄養素のひとつである「脂質」は1g当たり9キロカロリーのエネルギーを産出することができます。タンパク質、炭水化物は1g当たり4キロカロリーですから、脂質はいざというときのために役立つハイエナジーな燃料だといえます。
※脂質は主に「脂肪」「リン脂質」「コレステロール」の3タイプの形で人体内に存在します。
余分なエネルギーは、ほとんど脂質(脂肪)の形で蓄積されますので(肝臓ではグリコーゲンの形で貯蔵され、さらに余ると脂肪になります)、エネルギー摂取が多ければ体に当然脂肪が付きます。ですから下っ腹に脂肪が付いたら「エネルギーの取り過ぎ」といえます。同時に運動など「エネルギー消費」が少ないことでもあります。
下っ腹が出てきたら、
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過食
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運動不足
のサインと考えましょう(重篤な病気のこともあるのでその場合は注意:後述)。
■下っ腹の脂肪にも「皮下脂肪」と「内臓脂肪」がある!
下っ腹に付く脂肪には大別して、
・皮下脂肪
皮下組織に付く脂肪です。
・内臓脂肪
内臓の周りに付く脂肪です。
のふたつがあります。皮下脂肪は女性に多く、内臓脂肪は男性に多いといわれます。また、
・皮下脂肪は指でつまめる
が「内臓脂肪は指でつまめない」といった違いも指摘されるところです。どちらが深刻かといえば内臓脂肪です。内臓脂肪が増加すると、血中の中性脂肪・コレステロールが増加する、インスリンの働きを低下させるといった悪影響が出ます。
そのため内臓脂肪の増加は、
●糖尿病
●高脂質血症
●高血圧
●動脈硬化
といった生活習慣病に罹患(りかん)するリスクを高めるのです。
■女性の場合、下っ腹やお尻から脂肪が付きだす「洋梨型」が多い!
下っ腹に脂肪が付きだすと、肥満が近付きます。日本人のほとんど(約98%)が持つ肥満遺伝子があって、この組み合わせで、その人の肥満の体形がほぼ決まります。体形は以下の3つです。
●リンゴ型体形の肥満
日本人の約30%がこのタイプといわれます。糖分の代謝機能が低く(つまり糖尿病になりやすい)、内臓脂肪を蓄積しやすくおなかから太るため、このような体形になります。男性に多い肥満体型です。
●洋梨型体形の肥満
日本人の約34%がこのタイプといわれます。脂肪の代謝機能が低く、皮下脂肪を蓄積しやすく下腹部やお尻から太るため、このような体形になります。女性に多い肥満体型です。
●バナナ型体形の肥満
日本人の約24%がこのタイプといわれます。タンパク質の吸収効率が悪く、全身むちむちした体形になります。隠れ肥満といわれることも多く、このタイプの人が胃腸が弱いことが多いようです。男女比率は五分五分です。
上記のように、女性の場合は下腹部・お尻から太る「洋梨型」の人が多いのです。生活習慣病のリスクは「リンゴ型」の人よりは小さいですが、より重篤な病気を引き起こさないように注意したほうが良いことに変わりはありません。
■下っ腹が出てくる重篤な病気もある!
下っ腹が出てくるのは主に脂肪が付くから、要は「太ってきた」からですが、ほかにたとえば「胃下垂」が原因のこともあります。
胃下垂では下っ腹がポッコリと出た見た目になっていることが多いですね。
胃下垂は「痩せた長身の人」がなりやすいといわれますが、これは「胃を支える筋肉や脂肪の少ないこと」が理由です。そのため男性と比較して筋力の弱い女性は胃下垂になりやすいのです。読者の皆さんの友人にも、胃下垂の人がいらっしゃるのではないでしょうか?
また以下のような重篤な病気の場合も下っ腹が出てくることがあります。
●大腸がん
慢性的な便秘から大腸がんとなった場合は危険です。大腸がんは初期には自覚症状がほとんど見られません。便秘なので下っ腹が出ているんだ、などと独り合点をしていると、大腸がんを見逃す可能性があります。下っ腹が出ると同時に、何かほかの症状、たとえば「倦怠(けんたい)感」などがあった場合には、専門医を受診するようにしてください。
●クッシング症候群
脳下垂体に腫瘍ができ、下っ腹が出てくるのと同時に手足は痩せ細っていきます。頭痛・嘔吐(おうと)感などの症状も現れますので、できるだけ早く医師の診察を受けなければなりません。
加齢とともに下っ腹が出てくるのは、ほとんど「エネルギーが脂肪として蓄積されるため」です。エネルギーの摂取量が消費量よりも多いのが原因ですね。
肥満まで進むと、生活習慣病のリスクが高まりますので、食事療法を行うと同時に、適度な運動を心掛けて、脂肪の蓄積を減らすようにしましょう。
(高橋モータース@dcp)