毎日の生活に欠かせないコーヒー。飲むだけでしゃきっとした気分になるので、ついつい手を伸ばしてしまいます。朝の目覚めにまず一杯、昼食後の口直しに一杯、そして午後の眠気覚ましにもう一杯……って、あれ? 今日何杯目?
毎日飲んでいると、どうやらコーヒーに含まれるカフェインに依存してしまう危険があるようです。
カフェイン依存症ってどのような症状なのでしょうか。依存症にならないためにはどのようなことに気をつければいいのか。心療内科医の大澤亮太先生にお話を伺いました。
取材協力・監修
一橋大学経済学部に入学後、山梨大学医学部へ再入学。卒業後、神奈川県内の精神科病院やメンタルクリニックで勤務しつつ、中央省庁をはじめ、多数の民間企業で嘱託産業医を務める。2017年に元住吉こころみクリニックを開設。2013年よりメンタルヘルスを中心としたポータルサイト、医者と学ぶ「心と体のサプリ」運営を開始。
▼元住吉こころみクリニック
▼心と体のサプリ
■カフェインのメリットとデメリット
――そもそもカフェインとはどんなものですか? どのように身体に作用するのでしょうか。
大澤先生
カフェインは、コーヒーや緑茶などに含まれる天然由来の有機化合物であるアルカロイドの一種です。コーヒーを飲むと、眠気が覚めるように感じられるのは、カフェインの効能です。
カフェインの眠気をとる作用は、アデノシンという脳内の物質が関係しています。アデノシンには、覚醒作用のあるヒスタミンをブロックする(抗ヒスタミン作用)働きがあります。カフェインはこのアデノシンの邪魔をするので、反対に覚醒作用のあるヒスタミンの働きが強まって、頭がすっきりしたように感じられるのです。
――眠気覚まし以外のメリットやデメリットはありますか?
大澤先生
眠気を覚ましてくれるというメリットは、カフェインを適量飲んだときだけに得られるものです。ほかにも、一時的な血管収縮作用による頭痛の緩和などが挙げられます。市販の風邪薬に、カフェインが含まれていることもありますよ。
眠気覚ましになるということは、反対に言うと、身体を興奮状態にさせるということ。過度な摂取は自律神経のバランスが崩れ、不安が高まりやすくなってしまいます。睡眠の質が低下してしまうため、少なくとも就寝3時間前からは飲むのを控えたほうがいいでしょう。
■カフェインの許容量は人それぞれ
――適量に留めるべきだというのはよく耳にしますね。でも、なぜカフェイン依存症になってしまう人がいるのでしょうか。
大澤先生
カフェインを習慣的に摂り続けると、常に成分が体内にあることが当たり前になってしまいます。そのため、身体からカフェインが抜けると、なんだか落ち着かない気分になり、ついつい手が伸びてしまうのです。さらに、眠気や頭痛が緩和されるなどのメリットを感じると、「カフェインを飲めば楽になる」と考え、精神的に頼るようになります。その結果として、カフェインの摂取をやめられなくなってしまうのです。
依存が深まるとカフェインを断ったときに、頭痛や疲労感、眠気、不快感、集中困難、吐き気などの離脱症状が出ることもあります。離脱症状は、カフェイン断ちしてから12~24時間後から始まり、1~2日後が症状のピークです。短ければ数日で症状は落ち着きますが、離脱による頭痛は21日間と長期に渡ることがあるとも報告されています。
――カフェインを効果的に飲む適正量、もしくは限界量というのはあるのでしょうか。
大澤先生
実は日本では、カフェイン摂取の適正量や限界量は指定されていません。海外の一部の国では適正量の目安が示されており、カナダ保健省の2006年の発表では一日当たりの悪影響のない最大摂取量として健康な成人は400mgとされています。
文部科学省が分析公表している「日本食品標準成分表2015年度版」によると、缶コーヒー1本当たりのカフェイン含有量は60mgなので、7本飲んだらオーバーする量です。
コーヒーを1日7本も飲まないよ、なんて思われそうですが、カフェインはお茶やコーラ、ココアやチョコレート、栄養ドリンクなどにも含まれています。塵も積もれば……となることもあるため、気になる場合は製品に記された成分表を確認してみてください。
――つまりカフェインを400mg以上摂取すると依存症になる危険度が増すということでしょうか。
大澤先生
いえ、カフェインは少量でも毎日摂り続けると依存していく可能性があります。もちろん量が増える分、依存しやすくはなります。
――カフェイン依存症を治療するにはどうすればいいのでしょうか。
大澤先生
突然カフェイン断ちをするのではなく、少しずつ減量したり、デカフェ(カフェインレス)へと切り替えたりしていくことがポイントです。カフェインは吸収が早く、その影響がなくなるまでには3~7時間ほどかかるため、日ごろから飲む間隔もそれくらい空けたほうがいいでしょう。
症状が軽くなってきたら、カフェインを摂取しない日、少なめに摂取する日を週に2日くらい設けて徐々に身体を休ませていくことが大事です。
■過剰摂取すると中毒症状が出ることも
――カフェイン依存と同様に、「カフェイン中毒」という言葉も聞いたことがあります。これはどのようなものなのでしょうか?
大澤先生
カフェインを摂りすぎて一時的に体調が悪くなることをカフェイン中毒と言います。国際的な診断基準(DSM-V)では一度に250mg以上摂取したときに発症したものと定義しています。
許容量は体格や健康状態などの個人差があるため、250mg以下でも中毒症になる人もいます。適正量も同じように考え、体調と相談しながら摂取量を調整したほうがいいでしょう。
――カフェイン中毒ではどのような症状が表れるのでしょうか。
大澤先生
診断基準に記されているものでは、落ち着きのなさ、神経過敏、興奮、不眠、顔面紅潮、利尿、胃腸系の障害、筋れん縮、散漫な思考および会話、頻脈または心拍不整、身体疲労を感じない、精神運動興奮など。実際に程度の差はありますが、このような症状を経験された方も少なくないかと思います。私もコーヒー好きですから、経験したことがあります。
また一時的な過剰摂取で急性中毒症状が起こることも。たとえば激しい吐き気、胃腸炎のような症状、ふるえやけいれん発作などが起こったりして、致死的になることもあります。成人でのカフェインの急性致死量は5~10gといわれ、コーヒーでいうと80杯以上とあまり現実的ではありませんが、エナジードリンクの飲みすぎや市販薬のカフェイン乱用などで起こる可能性があります。カフェインの飲みすぎで中毒死される人は稀ですが、2015年では37人が亡くなり、実は年々増加傾向にあります。
――中毒症状が現れたらどのように処置したほうがいいのでしょうか。
大澤先生
カフェインは15分~45分くらいで体内に吸収され、一度吸収されたものは除去できません。過剰摂取によって、周りから見ても明らかに異常があれば、病院で全身管理が必要になることもあります。激しい嘔吐の症状で、救急車で運ばれてきた若い患者さんが、実はカフェイン中毒だったということも経験したことがあります。日常の量で不調を感じ取ったときは、水分を多めにとって、カフェインが身体から抜けるのを待ちましょう。
お菓子の食べ過ぎは注意できても、カフェインは仕事の効率化につながることもあり、危険度を軽視しがち。また一度でもカフェインの恩恵にあずかってしまうと、コーヒーを飲まずには仕事に集中できない! と思い込んでしまいますよね。
しかし今回話を聞いた依存症の症状は、少し身に覚えがありませんか。身体が危険信号を発しているのにも関わらず見過ごしているのかもしれません。
カフェインを含むコーヒーもお茶も元々は嗜好品。ノンカフェインのドリンクに変更したり、アロマを嗅いでゆっくりリラックスしたりして、カフェインに頼りすぎない習慣を身につけましょう。
(取材・文:小林有希 編集:ノオト)