現代人は多くのストレスを抱えているといわれます。「ストレスが体調不良につながる」なんて場合もあり、「ストレス解消」という言葉もよく耳にします。しかし、そもそもストレスとは、いったい何なのでしょうか。体にどんな影響を与えるの?今回は「ストレス」について解説します。
記事監修
渡辺宏行 先生
精神科医。信州大学医学部卒業後、横浜市立大学附属市民総合医療センターを経て医療法人福和会『南横浜さくらクリニック』勤務。日本精神神経学会、日本東洋医学会、医師+(いしぷらす)所属。
▼詳細プロフィール
■「ストレス」の意味とは?
『広辞苑 第六版』によると「ストレス」とは、
種々の外部刺激が負担として働くとき、心身に生じる機能変化。ストレスの原因となる要素(ストレッサー)は寒暑・騒音・化学物質など物理化学的なもの、飢餓・感染・過労・睡眠不足など生物学的なもの、精神緊張・不安・恐怖・興奮など社会的なものなど多様である、あるいは俗に、精神的緊張をいう
(『広辞苑 第六版』P.1512より引用)
とあります。
「仕事がストレスで……」と言うことがありますが、正確には、仕事はストレスではなく「ストレッサー」で、それによってストレスを受けているということになります。
ストレスの原因となるストレッサーは、次のようにまとめられます。
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物理化学的なもの……寒暑、騒音、化学物質など
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生物学的なもの……飢餓、感染、過労、睡眠不足など
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社会的なもの……精神的緊張、不安、恐怖、興奮など
「ストレスとは精神的なものだ」と考える人が多いのですが、実際には物理的・肉体的なものも含まれています。肉体的なストレス、精神的なストレスの原因としては、以下のようなものが考えられます。
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肉体的なストレスの原因
・物理的な原因……暑さ、寒さ、気圧の変化、強風、豪雨、落雷、大雪など
・環境的な原因……騒音、照明、埃(ほこり)、臭いなど
・化学的な原因……食品添加物、お酒、たばこ、環境汚染など
・肉体的な原因……空腹、病気、けが、長時間の通勤・通学、長時間労働、深夜・早朝勤務など
・生物的な原因……細菌、ウイルス、花粉など
・運動関係の原因……運動不足、急激な運動、悪い姿勢など
・食生活による……過食、小食、偏食、栄養不足など
・睡眠関係の原因……睡眠不足、過眠、不規則な睡眠、質の低い睡眠など
・生活関係による……不規則な生活リズム、夜更かしなど
・その他……第二次性徴、妊娠による変化など
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精神的なストレスの原因
・学校関係による……進学、進級、転校、成績不振、いじめなど
・仕事関係による……就職、昇進、異動、転勤、転職、失業、残業、ノルマなど
・家庭関係による……結婚、離婚、育児、介護、引っ越しなど
・人間関係による……家族、親戚、友人、パートナー、同僚、上司、部下など
・喪失体験による……家族・友人・ペットとの離別、死別など
・身体関係による……病気・けがによる精神的苦痛など
・その他……家族や友人の病気、社会への憤りなど
■ストレスがかかるとどうして体に不調が現れるの?
ストレスは自律神経との関係が深いと考えられています。自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経が働いているときには肉体的にも精神的にも緊張し、行動が活発になり、副交感神経が働いているときには逆にリラックスした状態になります。
言い換えると、日中には交感神経が働いているために活動的になり、エネルギーを消費し、夜は副交感神経が働くことによりリラックスし、睡眠を取ります。そして、睡眠によって体と脳を休め、エネルギーを回復するのです。
ストレスは緊張状態をもたらし、交感神経を活発にします。すると、本来は副交感神経が働かなければならないときも交感神経が活発なままになり、体も脳も休まることがなく、エネルギーも回復できなくなります。そして、活動のためのエネルギーが不足したままの状態が続くと、体にさまざまな不調が現れるのです。
■ストレスがかかることで起きる病気って?
人間が生きて活動していれば、ストレスがかかるのはごく自然なことです。しかし、慢性的に強いストレスがかかった状態が続くと体に不調が現れ、以下のような病気にかかることがあります。
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うつ病
ストレスといえば「うつ病」をイメージするのではないでしょうか。精神的なストレスだけが原因と考える人が多いかもしれませんが、上記のようにストレスの原因はいろいろなものがあります。
無気力でだるい、体が動かない、でも健康診断の結果では異常が見られなかった。そんな人は、心療内科を受診してみると良いかもしれません。
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依存症
アルコール、ニコチン、ギャンブルなど、いろいろなものへの依存症がありますが、これらもストレスに関係があるといえます。ストレスを紛らわすために、お酒を飲んだりたばこを吸ったりするという人もいらっしゃるかもしれませんね。
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自律神経失調症
上記のとおり、ストレスがかかると交感神経が活発になります。過度のストレスは自律神経の正常な働きを狂わせてしまいます。自律神経失調症にかかると、睡眠障害や頭痛、目まいなどの症状を引き起こします。
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過食症やそれにともなう嘔吐
過度なストレスがかかったとき、食べることでそれを解消しているうちにそれが習慣化してしまうと考えられています。過食したのち嘔吐することもあります。
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拒食症
過食症とは逆にものが食べられなくなってしまいます。太ることに対する恐怖、痩せなければならないという強迫観念から発症すると考えられます。
現代人はストレスから完全に逃れるのは難しいといえるでしょう。しかし、実際には楽しいこと、うれしいことも「刺激」という意味ではストレスの一種なのです。自分なりの発散方法を見つけ、適度なストレスとうまく付き合っていくのが望ましいあり方でしょう。
(藤野晶@dcp)