1997年の健康・体力づくり事業財団の大規模調査で、5人に1人の割合で何らかの不眠や睡眠の問題を抱えていることが明らかになりました。現代社会と睡眠の問題は切っても切れない関係なのです。
誰しも、「寝たはずなのになぜかすっきりしない」、「日中眠くてつらい」といった睡眠の問題に悩まされたことがあるのではないでしょうか。
今回は生活に大きな影響を与える「睡眠の質」について解説します。
睡眠の質を悪化させるのは…
睡眠の質を悪化させる要因はいくつもあります。まず、寝る前の飲食を見直してみましょう。入眠時に胃が活発になると睡眠の質が悪化するので夕食は睡眠の3時間以上前に済ますことが推奨されます。
また、就寝の4時間以内にカフェインを摂取すると睡眠の質を下げるリスクが高くなるといわれています。カフェインには利尿作用があるので途中で目が覚めやすくなります。カフェインは日本茶、コーヒー、ココア、紅茶、コーラなどの清涼飲料水、スタミナドリンクなどに含まれています。また、チョコレートはリラックス効果がありますが摂取量に注意が必要です。ホワイトチョコレートは比較的カフェイン量が少ないといわれています。
リラックス目的でタバコを吸う人もいるかと思いが、ニコチンは交感神経を活発にするので就寝前はなるべく避けましょう。
また、お酒を飲むと寝つきは良くなるかもしれませんが、お酒の力で寝ようとするのは避けましょう。睡眠が浅くなり、質が悪化するリスクが高まります。また、お酒に頼り過ぎると段々と量が増え、アルコール過剰摂取により精神・身体的問題が起こりやすいので注意が必要です。
また、寝ている時に体温が上昇していると寝つきが悪くなります。そのため、熱めの風呂に入ってすぐ寝ることはおすすめしません。同様の理由により、夜に激しい運動をするのも寝つきを悪くします。運動はストレッチ程度が良いでしょう。
早寝にこだわらず、早起きをこころがける
「早寝早起きが重要」という言葉はよく聞きますが、最近では早寝にこだわらず「早起きが早寝に通じる」といわれています。毎朝同じ時刻に起床し日中なるべく太陽の光を浴びることで、快適な入眠につながることが明らかになっています。もし早寝早起きの生活パターンにしたい場合は早寝から始めるのではなく、早起きして太陽の光を浴びることから始めてみてください。
眠りが浅いと感じる場合は特に「遅寝・早起き」をこころがけてみましょう。「早く寝ないと」、「たくさん寝ないと」と思うほど、かえって「自分は寝ていない」と感じやすく、不安で眠れなくなる可能性があります。むしろ遅寝・早起きにして寝る時間をあえて減らした方が、熟睡感が増すといわれています。
効果的な昼寝
15時前の20~30分の昼寝は効果的だとされています。ただし、30分以上の昼寝は脳と体が本格的に眠る体制になってしまい、かえって日中ぼんやりしてしまいます。また、夕食後に居眠りをするとその後で目がさえてしまい、いつもの時間で眠れなくなる可能性があります。昼寝のタイミングや時間に注意すれば、昼寝は睡眠の質を高める効果があるといえそうです。
睡眠の問題と関連する主な疾患
睡眠の問題の背景に以下の疾患が潜んでいる可能性があります。
・睡眠時無呼吸症候群
寝ている時に何度も呼吸停止になってしまう睡眠障害です。通常であればノンレム睡眠中に低下するはずの交感神経活動が低下しない、あるいはかえって増大することが明らかになっています。日中強い眠気がある、激しいいびきをしている場合などは要注意です。このような症状は中年以降の男性に多く、肥満、糖尿病、高血圧といった生活習慣病との関わりが深いです。また、あごが小さい方にも起こりやすいといわれています。
・睡眠時周期性四肢運動障害
寝る時に頻繁に腕や足がびくっと動く・蹴るような運動が見られる場合、この疾患の可能性があります。主に高齢者に多いです。
・ナルコレプシー
日中、突然の強烈な眠気に襲われ、数分から数十分寝てしまう場合、この疾患の可能性があります。寝た直後はすっきりしますが、数時間後に激しい眠気にまた襲われる場合があります。
・うつ病
睡眠や疲労感の問題に加えて、意欲・関心の低下、気分の落ち込みがずっと続く場合、この疾患の可能性があります。
もし上記の症状に一致した場合、専門機関を受診すると良いでしょう。睡眠は心とからだの健康に大きく影響を与える重要なものです。「まだまだ大丈夫」と無理をせず、睡眠に問題を感じたら遠慮なく専門家に相談してみましょう。
参考文献
内山真 編 睡眠障害の対応と治療ガイドライン じほう 2002
冨田悟江・北島剛司・粥川祐平 眠気・疲労・うつ―何が同じで、何が違うか― 睡眠医療3 2009
早坂修・井上昌次郎 快眠の医学―「眠れない」の謎を解く― 日本経済新聞社 2000
小島卓也・荻原隆二 すやすやねむる―快適な睡眠のとりかたと睡眠障害への対処法 指導者用マニュアル― 財団法人 健康・体力づくり事業財団 2000
(執筆・監修 ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社)