夜十分な睡眠を取っているはずなのに、昼間眠くて仕方がない。我慢できないほどの睡魔に襲われる……。このような症状は「過眠障害」の典型的なものです。今回は「睡眠-覚醒障害」のひとつとされる「過眠障害」についてご紹介します。
記事監修
堀内和一朗 先生
皮膚科医、抗加齢専門医、国際レーザー専門医、精神科医。
東京医科歯科大学医学部卒業。小張総合病院皮膚科医長、総合クリニックドクターランド船橋皮膚科部長を経て、現在は関東の精神科病院勤務。人間総合科学大学非常勤講師。
医師+(いしぷらす)所属。
■「過眠障害」とは?
「過眠障害」は「過眠症」ともいわれますが、夜の睡眠が足りていないわけではないのに、
・昼間に眠くて仕方がない/居眠りが我慢できない
・急な眠気(睡眠発作)に襲われる
・完全に起きる(覚醒する)まで時間がかかる
・長時間の夜間睡眠を繰り返す(ずっと寝ている)
といった症状が現れる疾患です。また、
・食欲がない
・不安やいら立ちを感じる
・活力が湧かない・倦怠(けんたい)感
・記憶障害
などの症状を伴うこともあります。一日に何度も睡眠発作が起こることが特徴の「ナルコレプシー」は、過眠障害のひとつと考えられています。ただし、ナルコレプシーは非常にまれな疾患で、眠ってはいけない場面で急に眠ってしまうなど、すぐに普通の状態ではないと分かります。
過眠障害はより一般的なもので、残念なことに周りの人からは「やる気がない」「怠けているのではないか」と思われてしまうことが多いのです。しかし、本人にとっては「昼間に眠気が我慢できない」という状態ですから、非常に深刻な疾患であるといえます。
■「過眠障害」の原因は?
過眠障害の主な原因としては次のようなものが挙げられます。
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身体的疾患(ウイルス感染、脳炎・脳腫瘍・がん・内分泌系の疾患など)
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遺伝的な要因
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精神的な要因
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医薬品(うつ病や不安障害に投与される向精神薬など)
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アルコールの乱用
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ほかの睡眠-覚醒障害の「不眠症状」による
(睡眠時無呼吸症候群・周期性四肢運動障害・レストレスレッグス症候群・ナルコレプシーなど)
「身体的疾患」や「遺伝的な要因」によるものは、一般的に「器質性過眠障害(過眠症)」といわれます。この器質性過眠障害以外で、精神的な要因によるものは「非器質性過眠症」として『ICD-10』では以下のように説明しています。
●非器質性過眠症(Nonorganic hypersomnia)
過眠症は昼間の過剰な眠気と睡眠発作(睡眠不足では説明されない)、あるいは完全覚醒への移行が長引いた状態として定義される。
はっきりした器質的原因がみつからない場合、この状態は通常、精神障害と関連している。双極性感情障害のうつ病相(F31.3、F31.4あるいはF31.5)、反復性うつ病性障害(F33.-)、あるいはうつ病エピソード(F32.-)の一症状としてしばしば認められる。(後略)
しかしながら、訴えの心理的原因の証拠がしばしば存在するのに、時々他の精神障害の診断が満たされないことがある。
⇒データ引用元:
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン 新訂版』(医学書院)2017年3月1日新訂版第11刷発行,P.193/「F31.3」などはICD-10による精神疾患の分類です。
■「過眠障害」の治療法は?
過眠障害の治療は原因によって異なりますが、対症療法が主なものになります。
身体的疾患によるもの、ほかの睡眠-覚醒障害によるものであればその病気を治療することで症状の改善が期待できます。医薬品によるものであればその使用を控えることで過眠症状を抑えることができます。アルコールの乱用が原因の場合でも、同様にアルコールの摂取を控えます。また、
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夜間の仕事や活動を控える
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睡眠-起床の時間を一定にして生活リズムを整える
などの生活改善を行うことで症状の緩和が見られることもあります。
「中枢神経刺激剤」による薬物治療もありますが、あくまでも専門医の指導の下で、薬の量を管理しながら慎重に行うことが求められます。中枢神経刺激剤は非常に強い医薬品で、処方できる医師も登録制をとり、流通を管理されています。
「不眠」と同じように「過眠」もまたつらいものです。「夜寝ているのになぜ?」と自分を責める気持ちになりがちですし、眠気を抑えることができませんからね。慢性的な「過眠」症状があったら、自分で抱え込んで悩まず、専門医を受診するようにしてください。
(高橋モータース@dcp)