大事な会議中にあくびが止まらない、恋人とのデートで楽しいはずなのにうっかりあくびをして微妙な空気に……。そんな日常生活におけるあくびの悩みに直面したことはありませんか? 特に仕事中のあくびは周囲の目もあるため、過去に恥ずかしい思いをしたことがある人もいるかもしれません。
しっかり睡眠をとっているつもりなのにあくびが多いのはなぜなのか、目黒通りハートクリニックの安田洋先生にお話を伺いました。
<取材協力>
安田洋先生
循環器専門医・総合内科専門医・医学博士。1996年に滋賀医科大学医学部医学科卒業後、同大学呼吸器循環器内科へ入局。2005年に滋賀医科大学大学院博士課程を修了。2013年に目黒通りハートクリニックを開設し、「心臓病」・「生活習慣病」のスペシャリストとして地域医療に携わる。
▼目黒通りハートクリニック
■あくびは脳からのサイン?
――そもそもあくびは、なぜ起こるのでしょうか?
安田先生
まだ詳しい原因は解明されていませんが、脳が酸素不足のときに起こると考えられています。脳を覚醒させるための身体の反射があくびです。反射というのは、熱いものを触ったときに考えるよりも先に手を引っ込めるなど、身体が無意識のうちに行う動作のことです。
――脳が酸素不足=身体が疲れているとき、ということになりますか?
安田先生
そうですね。疲れているときや睡眠不足のときにあくびは出やすいです。それ以外には緊張をしているときにも、状態を緩和するためにあくびが出る場合があります。
――よく「あくびはうつる」と言いますが、これは本当なのでしょうか?
安田先生
最近イタリアの研究者からされた研究報告で、「あくびはうつること」がわかりました。家族、友人、知人、見知らぬ人という順にうつりやすいです。これは共感性が関係しているかもしれません。また動物行動学の研究から「チンパンジーにおけるあくびの伝染」という報告がイギリスと日本の研究者からあり、あくびが伝染することが実証されました。
■眠くないのにあくびが出るのは、なぜ?
――寝不足や疲れ、緊張を実感していなくても、あくびが出ることがありますが、その理由はなんですか?
安田先生
それは、生あくびかもしれません。生あくびは、眠気や疲れがないときに出るあくびのことです。生あくびが多い場合には、もしかしたらなにか脳に異常が起きている可能性があります。脳に関する病気をはじめ、そのほか全身になんらかの病気が隠れていることもあるため注意が必要です。
――具体的にどんな病気の可能性がありますか?
安田先生
脳梗塞などの病気、一酸化炭素中毒などの低酸素血症、睡眠時無呼吸症候群などによる睡眠障害、心不全などによる脳の血流不足、血糖のコントロール不良である糖尿病などを患っている可能性があります。
中でも睡眠時無呼吸症候群は、20〜30代の女性でも患う可能性がある病気のひとつです。あごが小さい人に症状が現れやすく、現代病のひとつと言われています。年齢による筋力の衰え、首やあご周りの脂肪のつき具合が関係してくるため、見た目がふくよかな人だけがかかる病気ではありません。
――もしかしたら、あくびが多いこと自体が病気のサインなのでしょうか?
安田先生睡眠不足や疲れが溜まっている場合にもあくびは多くなるので、あくびの量が増えたからといって必ずしも病気が隠されているとはいえません。ただし、目安として一週間以上あくびがとまらない場合には、病気が隠されていないかを検査する必要があります。あくびがきっかけとなり、睡眠時無呼吸症候群やうつ病など、病気が見つかる可能性があるからです。
とはいえ、医療機関を受診する人の大半は、あくびで悩むというより「強い眠気がある」という理由からです。気になるほどの眠気が続く場合にも、医療機関を受診されることをおすすめします。
■気になる症状がある場合には、まずは近所の医師に相談しよう
――医療機関を受診する場合には、何科に行けばいいでしょうか?
安田先生
まずは内科を受診しましょう。状況に応じて、それぞれの医療機関を紹介してもらえます。いきなり総合病院や大学病院といった大きな病院を受診すると、紹介状がない場合に別料金がかかることがあり注意が必要です。内科のクリニックを受診するのをおすすめします。
もし、かかりつけの病院がない場合には、この機会にかかりつけ医を見つけるところからはじめてはいかがでしょうか。家の近所や職場の近くなど、無理のない範囲で通えるところで医師を探すと、あくびや睡眠以外にも困ったことがあったときに相談しやすくなります。
なんとなく流してしまうことが多い、あくび。医学的な解明はこれからですが、脳の酸素不足が関係している可能性があるとのことでした。また生あくびには、もしかしたら病気のサインが隠れているかもしれません。もし、あくびと併せて睡眠にまつわる気になる症状がある場合には一度かかりつけ医を受診してはいかがでしょうか。
(取材・文:スギモトアイ 編集:ノオト)